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【書評】★5 私の信仰

 このブログを読んでくれる方の中で、ドイツの(2019年現在)首相アンゲラ・メルケルが牧師の子供で、ドイツキリスト教民主同盟という政党にいて、今も固くキリスト教信仰を貫いているプロテスタントだということをどれだけの人がご存知だろうか。

 と同時に、この本が宗教書ではなく、政治的スピーチ集であるということをご存知の方も少ないだろう。

わたしの信仰: キリスト者として行動する

わたしの信仰: キリスト者として行動する

 

  政教分離ということを考えると、「えっ、一国の首相が宗教と政治を語っていいのか?」と思われるかもしれない。しかしルター派であるメルケル首相の信じる聖書の言葉は、どんな文化の誰が読んでも感じるような常識的なことを書いてある。それは、立場の弱いものは守ろうとか、自由には責任が伴うといった事だ。

 本書は17つのスピーチが収録され、5つに分かれているが、個人的にはおおよそ3部に分けられると考えている。はじめは主に教会大会(司教や牧師等が集まるカンファレンス)でのメルケル首相なりの聖書への解釈と政治のこと。2つ目に政治の基本理念としてのキリスト教。3つ目に移民政策。

 各章のタイトルは呼ばれたところによって様々なのだが、タイトルと中身がマッチしないときがある。しかしそれがいい。あまり期待せずに読んだ箇所が、実は子育て家庭への政策に言及していたり、仕事や退職後のボランティアあるいは歳を重ねてからの学び直しについて論じていたりもする。

 個人的にとても心に残った部分は、家族への支援を継続し続けると断言している理由である。家族は社会の最小単位という言葉があるが、聖書も家族を・教会を大事にしよう、そこから発展して社会を作ろうと述べている。メルケル首相はそこに着目し、子供がいても働きやすい社会、また家族が望むいろいろな生き方を支援することを宣言している。

 健全な家族がすべてではない今の時代、首相が教会に望むのは現代家族の不完全を補うこと、とも書かれている。ハイソインテリのワスプがプロテスタントの構成員とやじられる中、教会がただひたすら弱きものに寄り添う姿勢を持つことの重要さを改めて実感させられた。(ハイソインテリだからできることだってあるんだけどね)

 

 さて本書の話に戻るが、昨今ドイツで話題になっているのは、おそらく少子高齢化に伴う年金問題、電力等のエネルギー問題、移民問題だろう。それらを首相として様々な決断を下す必要がある立場である彼女の言葉は力強い。鉄の女と言われる理由は、ブレない軸が彼女の中にあるからだろう。

 ドイツの背景も、政治の世界も読者である私は完璧に知っているとは言えない。しかし本書を読んでいると、ドイツ語も話せないのに不思議とドイツへ行きたくなるのである。

 それはひとえに彼女の政策が「誰一人置いていかない社会を作る」を基準にしているからだろう。強いもの、弱いもの、それぞれ神様はご計画を持って造られた。なるほど、弱いと切り捨ててしまっては、イエスの考えに反するものである。

 

 ふと、自分の周りを見渡してみる。日本社会は戦後の名残で強いものが勝ち、弱いものが負けるという世俗的な考えが蔓延っている。資本主義・民主主義としてはそれが成立するのだろうが、すでに限界が来ているのは周知のこと。誰だって弱いところ、苦手なところがある。それを克服してスーパーオールラウンダーを作り出すことより、苦手・特異を組み合わせてパズルを組み合わせるように絵を完成させていくほうが“だれ一人置いていかない”。

 仕事、あるいは教会での交わりを通して、人々の強み(聖書的に言えば賜物)を伸ばしていく社会が、日本ではなくドイツのほうが先に実現しそうだ。我々は「絆」を訴えていた東日本大震災から、何も学ばないわけにもいかないのである。社会を構成する一因として、またキリストの心を持って世に出ていくものとして、そして社会に住むものとして、バランスを取りながら生きていくために必読だと感じる。