冒頭からネタバレとなるが、本書のメイントピックはナラティブ・アプローチである。この言葉は看護の世界ではよく出てくる話だ。元々医療の世界で「相手の気持ちに立つ」というのは具体的にどういうことかというときに持ち出される言葉で、それを経営や交渉事に適応させたらどうだろうかという投げかけと具体的な方法をあげたのが本書である。
自分の立場をよそにおいて相手のストーリー汲むと言うことは、何も医療に関わらず、対人するものは全てに応用ができることだ。本書は交渉事が苦手だとか、「あの上司(お客さんなど)ほんと話通じなくってムカつく」と一度でも思ったことのある人に強く勧める。
他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論 (NewsPicksパブリッシング)
- 作者:宇田川 元一
- 出版社/メーカー: NewsPicksパブリッシング
- 発売日: 2019/10/04
- メディア: 単行本
そもそも問題となるようなことは、本屋に数多とある交渉術自己啓発本で書かれているスキルで解決できるならとうの昔に解決されているはずである。従って、今残っているということは、従来のアプローチでは解決できない問題であると筆者は語る。
それならナラティブ・アプローチに立った交渉で解決できないか?という主旨が本書で語られる。
具体的に「上司が分かってくれなくてまじムカつく」という前述の例を用いると。わたしと上司には深い隔たりがあって(わかりあえなさ)、橋をかけるにはベストな場所があり、それをかけそこねると橋は届かない。
ベストな橋渡し場所とは?それを「観察」するのが第一歩である。上司のストーリーを観察し、ここに押しをかければ橋をかけられるというところを探す。上手くかけられない場合はトライアンドエラーでまた観察に戻る。
そう、まずは自分の立場を考えずに、相手に主眼を置く。それが出来なければ、橋渡しもできない、ということだ。
自分以外の人間は他者であり、人は心を読めない。わかりあえないことをいつまでも嘆いて何もしないで諦めて愚痴だけをこぼすのは、利益を追求する会社においては交渉決裂や提案失敗など確実に不利益につながる。相手は「それ」ではなくストーリーのある人であること、それを理解したスターバックスのような相手をそれでなく人と思う会社は利益をあげられると本書にあった。
なるほどわかりやすい。自分は他者ではないので「わかりあえない」ところから関係はスタートする。わかりあえないままで橋を渡そうとしてもお互いぶつかり合い橋を渡せないままとなってしまう。自分が変わらずに相手にだけ分かってもらおうとするだけでも、いけない。交渉事などに応用するわけだから、「私が妥協すればいい」で自分のストーリーを蔑ろにすればよいという話でもない。いかに双方が気持ちよく物事を勧め、互いに利益になる事を求めるかがポイントとなるのだ。
確かに、わたしのストーリーを押し付けず、まずは相手のストーリーを探るということが、これまで解決されてこなかった大きな問題を解決する一手となるのではないか。大いに納得がいく本であった。
本書はキンドルで買ったが、書籍を買って「うちのお客、話が通じなくて困る」という一方的な態度の夫にも勧めたい。